2026年7月24日に発表された研究において、男性型脱毛症(AGA)の治療効果を評価する新たな指標が確立されました。この研究では、従来の評価法では見逃されがちだった毛包単位という構造に着目し、治療の有効性をより詳細に判定できる可能性が示されました。
研究の概要と注目すべき新たな評価指標「QTES®」とは

この研究は、日本人男性の男性型脱毛症患者59名を対象に、12か月間実施されました。治療には、自身の頭皮組織を用いた移植療法と、他家の幹細胞培養上清液を併用する方法が採用されました。研究の最大の特徴は、効果の評価に「トリコスコピー定量評価システム(QTES®)」という新指標を用いた点にあります。
対象:日本人男性型脱毛症患者 59名
治療期間:12か月
評価指標:トリコスコピー定量評価システム(QTES®)
改善率:全体の69.5%
重篤な有害事象:確認されず
マイクログラフトと幹細胞培養上清液の併用療法とは
研究で用いられた治療法は、従来の単一療法ではなく、2つの技術を組み合わせたものです。まず、患者自身の頭皮から採取した微小な組織片(マイクログラフト)を移植します。これに加えて、他家の乳歯から採取した歯髄幹細胞の培養上清液を投与します。この併用療法により、12か月後には全体の約7割に改善が認められました。
従来の評価と異なる「QTES®」の特徴
これまで、発毛治療の効果は主に「毛密度」(単位面積あたりの毛の本数)や「毛径」(毛の太さ)の変化で評価されてきました。しかし、この研究では、改善群と非改善群の両方で毛密度に統計的に有意な変化が見られなかったことが報告されています。この結果は、密度だけでは治療の真の効果を測りきれない可能性を示唆しています。
そこで注目されたのが、新指標「QTES®」です。これは、毛径や毛密度に加えて、「毛包単位内の毛髪数(HN/FU)」という指標を統合した6段階の評価システムです。毛包単位とは、1つの毛孔から生える毛のまとまりを指します。通常、1つの毛包単位からは1〜4本の毛が生えています。
- 改善群では、毛径の増加に加え、1つの毛包単位から生える毛の本数が増加しました。
- 一方、非改善群では、この毛包単位内の毛髪数が減少する傾向が観察されました。
つまり、QTES®は単に毛が増えたか減ったかだけでなく、毛包そのものの質的変化(太く、かつ1つの穴から複数の毛が生える状態への回復)を捉えることで、治療の「質」を評価するツールとしての有用性が示されたのです。
研究結果から見えた「効く人」と「効かない人」の違い
12ヵ月にわたる治療と評価の結果、研究では明確な傾向が浮かび上がりました。全体の約7割にあたる患者さんで改善が確認された一方で、約3割の方では十分な効果が得られませんでした。この違いは、従来の評価指標では見落とされていた「毛包単位」という構造に着目することで、はっきりと可視化された点が画期的です。
全体の約7割で改善が確認、重篤な副作用なし
研究の結果、治療を受けた患者さんのうち69.5パーセントの方で、見た目の改善(ハミルトンノーウッド分類の進行度が改善)が認められました。また、重篤な有害事象は確認されておらず、治療の安全性が示唆されています。
治療反応のカギは「毛包単位内毛髪数(HN/FU)」にあり
研究では、治療が「効いた人」と「効かなかった人」の間で、ある明確な違いが浮かび上がりました。それは、毛包単位から生えている毛髪の本数、つまり「毛包単位内毛髪数(HN/FU)」の変化です。
- 改善群:毛包単位内毛髪数(HN/FU)と毛径の両方が増加した。
- 非改善群:毛包単位内毛髪数(HN/FU)が減少する傾向が見られた。
特に注目すべきは、従来から治療効果の指標として広く用いられてきた「毛密度」(単位面積あたりの毛髪本数)には、改善群・非改善群いずれにおいても統計学的に有意な変化が認められなかった点です。このことから、毛密度だけを見ていると、治療の真の効果や反応性を見逃してしまう可能性があることが示唆されました。
この研究の結果は、男性型脱毛症の治療効果を評価する際の新たな視点を提供しています。毛包単位という構造に着目し、毛径の太さだけでなく、そこから生えている毛髪の本数(HN/FU)を合わせてモニタリングすることで、「見た目」の改善に直結する変化を、より早期かつ正確に捉えられる可能性があります。
なぜ「毛包単位」という視点がAGA治療で重要か

これまでのAGA治療では、毛髪の太さ(毛径)や、一定面積あたりの毛髪の本数(毛密度)の改善を主な効果の指標としてきました。しかし、今回の研究では、この従来の評価方法には限界がある可能性が示されています。より本質的な治療効果の判断には、「毛包単位」という構造に着目することが鍵になるかもしれません。
成人の頭皮では、1つの毛穴(毛包単位)から通常1本から3本の毛髪が生えています。この毛包単位は、AGAの進行とともに、太い毛が細くなったり、1本しか生えなくなったりするなど、その「質」が変化していきます。
従来のAGA治療評価の限界
今回の研究では、治療後に改善が認められた人と認められなかった人のデータを比較しました。その結果、興味深いことに、治療の有効性を判断する従来の指標である「毛密度」は、改善群と非改善群のどちらでも統計的に有意な変化がなかったのです。
「毛包単位」評価の臨床的メリット
では、「毛包単位」に着目することの具体的なメリットは何でしょうか。研究では、治療効果が現れた患者さんでは、毛包単位内の毛髪数が増加した一方で、効果が現れなかった患者さんでは逆に減少していたことが報告されました。
| 評価の視点 | 従来の評価 | 新しい評価(毛包単位) |
|---|---|---|
| 焦点 | 毛髪の太さ、全体の本数 | 1つの毛包から生える毛髪の本数(質) |
| 長所 | 見た目の変化と相関しやすい | 治療反応の有無を早期に判断できる可能性 |
| 限界 | 効果の有無を適切に評価できないケースがある | 特殊な機器(トリコスコピー)による観察が必要 |
毛包単位の評価は、治療が「効く人」と「効かない人」を見分けるマーカーとして有用である可能性が示されています。これにより、患者さん一人ひとりに最適な治療計画を立てる「個別化医療」への貢献が期待されます。例えば、治療を開始しても毛包単位内の毛髪数が増えない場合は、早い段階で治療法の見直しを検討する判断材料となるでしょう。
- 治療の効果をより詳細に、客観的に評価できる
- 効果が現れるかどうかを、見た目の変化よりも早期に予測する手がかりになる
- 患者さんごとに最適な治療方針の決定に役立つ
AGA治療の目標は、単に毛髪の本数を増やすことではなく、健康で太い毛髪を育て、その質を回復させることにあります。「毛包単位」という視点は、その本質的な改善を追跡するための、新たな道しるべとなる可能性があります。
薄毛治療を検討する読者へのアドバイス
治療効果を適切に評価し、納得のいく選択をするためには、従来の常識にとらわれすぎない視点が重要です。最新の研究が示唆するのは、治療効果の見極めにおいて「毛包単位」という新たな視点を取り入れることの価値です。これは、単に「毛が増えたかどうか」ではなく、より本質的な「頭皮の状態が良くなっているか」に着目する考え方です。
治療効果を適切に評価するために、最新の研究を治療選択にどう活かすか
今回の研究結果から得られる、治療を検討する際の具体的なヒントは以下の通りです。まず、治療効果は「見た目の密度」だけでなく「毛の太さ」や「毛包の状態」も重要な指標であることを認識しましょう。研究では、従来の指標では捉えきれなかった「毛包単位内の毛髪数」の変化が、治療の成否を分ける重要なサインとして浮かび上がりました。
- 毛が細くなって見える場合でも、毛包単位の状態が回復し、1つの毛穴から複数の毛が育ち始めることで、将来的に密度感が改善する可能性があります。
- 反対に、密度が一時的に増えたように見えても、毛包単位が弱っている状態であれば、その改善は持続しないかもしれません。
治療を始める前には、担当の医師とどのような方法で効果を評価していくのかについても、確認・相談することが望ましいでしょう。例えば、「今回の研究のような毛包単位に着目した評価は可能ですか?」「治療経過はどのようにモニタリングしますか?」といった質問をしてみることをおすすめします。
ただし、今回の研究はあくまで一つの治療法と評価法の報告であり、全ての人に当てはまるわけではないことを理解する必要があります。研究に参加した方の約7割で効果が認められた一方、約3割の方では十分な効果が得られなかったという事実も、治療には個人差があることを示しています。大切なのは、最新の知見を参考にしながらも、ご自身の頭皮の状態や生活スタイルに合った、継続可能な治療法を医師と共に探していく姿勢です。
- 「毛包単位」に着目した評価は、どこのクリニックでも受けられますか?
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現時点では、研究で用いられた「トリコスコピー定量評価システム」のような詳細な評価を行える施設は限られていると考えられます。しかし、一般的な拡大鏡を用いた診察は多くの専門クリニックで行われています。治療開始前のカウンセリングで、どのような診察・評価方法が用いられるかを確認してみましょう。
- 治療効果を判断するまでに、どのくらいの期間が必要ですか?
-
治療法によって大きく異なりますが、一般的な育毛治療では、効果を実感するまでに3〜6か月以上かかることが多いです。今回の研究でも、12か月後の評価で効果が判定されています。焦らずに継続することが大切ですが、定期的に経過を評価し、効果が感じられない場合には医師に相談することをおすすめします。
研究を率いた上島朋子医師と研究機関について
毛包単位という新たな評価指標の可能性を示した研究を主導したのは、東京ミッドタウン皮膚科形成外科Noage(ノアージュ)の上島朋子院長です。病理学を専門に研究した経歴を持つ皮膚科医であり、「肌」という繊細な臓器をしっかりと見つめ、治療や施術を提供することをモットーとしています。「肌の健やかな美しさ」にこだわり、疾患治療から先端美容医療、再生医療の研究まで幅広く手がけています。
この研究は、リゾートトラスト株式会社のグループ企業である株式会社アドバンスト・メディカル・ケアが運営支援を行う医療施設で実施されました。同社は、メディカルサービスの提供のみならず、医師監修による高付加価値サプリメントや化粧品の開発など、健康と美に関する総合的なソリューションの提案に取り組んでいます。
上島医師は、1992年に新潟大学医学部を卒業後、皮膚科医としての道を歩み、2018年より現職の院長を務めています。日本皮膚科学会や日本再生医療学会など、専門性の高い複数の学会に所属し、研究と臨床の両面からアプローチを続けています。長年の臨床経験と研究への深い知見が結実した成果と言えるでしょう。
- 上島朋子医師はどのような専門分野を研究してきたのですか。
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病理学の研究を経て皮膚科医になった経歴を持ち、特に「肌」という臓器の観察と治療に注力しています。疾患治療だけでなく、先端美容医療や再生医療の研究にも取り組んでいます。
- 研究を支援した株式会社アドバンスト・メディカル・ケアとはどのような会社ですか。
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リゾートトラスト株式会社のグループ企業で、医療施設の運営支援を行うほか、医師監修によるサプリメントや化粧品の企画・販売など、健康と美に関する総合的なソリューションを提案しています。
- この研究が掲載された学術誌は何ですか。
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オンラインジャーナル美容皮膚・ヒト臨床ジャーナル「Journal of Cosmetic Dermatology(JCD)」の2026年6月号に掲載されました。
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