自分の皮膚の組織を細かくして頭皮に注入する「マイクログラフト」という薄毛治療を目にして、内服薬や外用薬とどう違うのか、受けてみる価値があるのか気になっている人もいるでしょう。
判断の分かれ目は、どこまで効果が確かめられている治療なのかと、使う機器が国内で承認されているかどうかです。この記事では、治療の仕組みと研究の現状、受ける前に確認したいことを、日本皮膚科学会の診療ガイドラインと厚生労働省の資料をもとに整理します。
この記事のまとめ
- マイクログラフト薄毛療法は、自分の有毛部の皮膚を少量採り、細かく砕いた組織を薄毛の部分に注射する治療。植毛手術とは異なる
- 日本皮膚科学会の診療ガイドライン(2017年版)にこの治療の項目はない。近い分類の「成長因子導入・細胞移植療法」は推奨度C2(行わないほうがよい)
- 海外では効果を示す研究もあるが、規模の小さい研究が中心で、予備的な段階とされている
- 組織を砕く機器は国内では未承認と案内されている(入手経路、国内で承認された同等品の有無、諸外国での承認状況は本文で)。受ける前に説明を確かめたい
※日本皮膚科学会の診療ガイドライン、厚生労働省の医療広告ガイドライン、論文データベースPubMedの論文、提供医療機関の公式サイトによるもの。詳細は本文で。
この記事の書き方について
当サイトでは、利用者の体験談や口コミを掲載していません。医療に関する広告では、患者の主観や伝聞にもとづく体験談などが医療法で禁止されており、厚生労働省は2025年8月15日付の通知「美容医療に関する取扱いについて」(医政発0815第21号)でこれを改めて示しています。(厚生労働省の通知本文)
医療についての記載は、日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」と「皮膚科Q&A」、論文データベースPubMedに掲載された論文、未承認医薬品等の説明については厚生労働省の「医療広告ガイドライン」、治療の内容は提供医療機関の公式サイト(2026年10月19日時点)によるものです。特定の医療機関の治療を勧めるものではありません。この記事は一般的な情報で、診断や治療の判断は医師の診察で行われます。記事の作り方はコンテンツ制作方針に記載しています。
マイクログラフト薄毛療法とは

自分の皮膚組織を砕いて、頭皮に注射する治療
マイクログラフト薄毛療法(毛包皮膚組織移植法)は、自分の健康な有毛部から皮膚を少量採取し、真皮と毛包の組織を細かく砕いて注入液をつくり、薄毛が気になる部分に注射する治療です。たとえば東京都港区の青山エルクリニックは、首の後ろの有毛部から約3mmの皮膚を採取して縫合し、注入液を頭部全体に注入すると説明しています(青山エルクリニック)。
同院は、注入することで真皮の新しい血管が増え、血流の改善による発毛効果が期待できるとしています。基本は年1回の治療で効果を判断し、男女どちらも対象としています(青山エルクリニック)。後頭部の毛を毛包ごと薄毛の部分に植え替える「自毛植毛術」とは、別の治療です。
毛がほとんどない部分には、効果が期待できない
同院は、治療する部分に毛髪がほとんどない場合は、改善効果が期待できないと案内しています。また、施術前に感染症の血液検査が必要で、皮膚を採取した部分は1週間後に抜糸します(青山エルクリニック)。公的医療保険が使えない自由診療で、費用は全額自己負担です。
研究でわかっていること・わかっていないこと
診療ガイドラインには、この治療の項目がない
日本皮膚科学会の男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版には、マイクログラフトの項目はありません。近い分類として「成長因子導入および細胞移植療法」があり、推奨度はC2(行わないほうがよい)です。
ガイドラインは、毛をつくる力をもつ細胞の移植や、細胞の培養上清からの生成物、PRP(多血小板血漿)などを注入する治療について、臨床試験の多くは限られた施設での先進医療の段階にあり、安全性も含めて有効性は十分に検証されているとはいえないとしています。今後が期待される治療法ではあるものの、現時点では広く一般に実施できるとは言い難いため、行わないほうがよいとされています(診療ガイドライン)。
海外の研究は、まだ予備的な段階
2026年にオーストラリアの研究者が発表した系統的レビュー・メタ解析は、自己マイクログラフトの治療とフィナステリド(1日1mg以上)の効果を比べ、髪の本数の改善はどちらも効果の大きさが「小さい」水準で、マイクログラフトはフィナステリドと同程度の選択肢になりうるとしました。ただし著者自身が、規模の小さい研究が中心で、予備的な証拠にとどまると位置づけています(PubMed)。
英国の大学などの研究者による2025年の系統的レビューでは、マイクログラフト技術を使った55件の研究のうち、男性型脱毛症を扱ったものは7件でした。統合して解析できたのはやけどの研究だけで、薄毛についての効果はまとめられていません(PubMed)。
国内では、治療後に円形脱毛症が起きた例の報告も
2019年には、慶應義塾大学の皮膚科のグループが、男性型脱毛症の治療として自己の真皮マイクログラフトの注入を受けたあとに、多発性の円形脱毛症が起きた例を報告しています(PubMed)。1例の報告で、治療との因果関係や起こる頻度がわかるものではありませんが、新しい治療では、こうした予想外の反応が後からわかることもあります。
組織を砕く機器は、国内では未承認
青山エルクリニックは、皮膚組織を細かく砕くのにイタリア製の医療機器「Rigenera(リジェネラ)」を使っており、この機器は医薬品医療機器等法上の承認を得ていない未承認機器だと表示しています。入手経路は国内代理店で、国内で承認された同じ性能の機器はなく、諸外国ではEUのCEマークと米国FDAの認可を受けていると説明しています(同院の公式サイト)。
厚生労働省の医療広告ガイドラインは、未承認の医薬品や医療機器を自由診療で使う場合、次の内容を十分に記載するよう医療機関に求めています(医療広告ガイドライン)。受ける前に、これらの説明があるかを確かめましょう。
- 未承認医薬品等であること
- 入手経路(医師の個人輸入の場合はその旨)
- 国内で承認された、同じ成分や性能をもつ医薬品等の有無
- 諸外国での安全性などの情報(主要な欧米各国で承認されていない場合は、重大なリスクが明らかになっていない可能性があること)
- 医薬品副作用被害救済制度などの公的な救済制度の対象にならないこと
国内で承認された医薬品などによる健康被害には公的な救済制度がありますが、未承認の医薬品や医療機器を使った場合は、その対象になりません。
マイクログラフト薄毛療法の主なリスク・副作用

- 採取部・注入部の腫れや内出血:一時的に起こることがあり、通常は数日〜1週間程度で落ち着くと案内されている
- 麻酔の注射の痛み:皮膚の採取時に部分麻酔を行うため、麻酔注射による一時的な痛みがある
- 採取部の縫合と抜糸:皮膚を採取した部分は縫合し、1週間後に抜糸する
- 効果には個人差がある:毛がほとんどない部分には改善効果が期待できないとされている
- 予想外の反応:治療後に多発性の円形脱毛症が起きた例が国内で報告されている(1例)
青山エルクリニック公式サイト(2026年10月19日時点)と慶應義塾大学皮膚科の症例報告によります。
同院は、妊娠中・授乳中・妊娠の可能性がある人、指定の感染症検査が陽性の人、ヒトインスリンに過敏症の既往がある人、悪性腫瘍や自己免疫疾患、膠原病、血液疾患、心臓病などがある人は、治療を受けられない可能性があるとしています(青山エルクリニック)。持病のある人は、必ず医師に伝えましょう。
受ける前に確認したいことと、ほかの治療の選択肢

診察で確認したいこと
- 薄毛の原因は何か(男性型脱毛症か、ほかの脱毛症か)
- 治療する部分に、効果が期待できる程度の毛が残っているか
- 使う機器や薬剤が国内で承認されているか。未承認の場合、その説明と救済制度の扱い
- 効果がなかった場合の対応と、追加の治療や費用
- ガイドラインで推奨されている治療を試したか、併用できるか
ガイドラインで推奨度が高い治療
日本皮膚科学会の診療ガイドラインで、男性型脱毛症に「行うよう強く勧める」(推奨度A)とされているのは、フィナステリドの内服、デュタステリドの内服、ミノキシジルの外用です。自毛植毛術とLED・低出力レーザー照射は推奨度B(行うよう勧める)です(男性型脱毛症の診療ガイドライン)。
同学会は、男性型脱毛症は「加齢変化の一種」と解釈されているため、有効な治療法の多くは保険診療で受けられないと説明しています(日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」)。フィナステリドにはまれに肝機能障害、デュタステリドにはリビドー減少や勃起不全などの副作用の報告があり、ミノキシジルの外用ではかゆみやかぶれなどが報告されています(診療ガイドライン)。
湘南AGAクリニック
全国130院。転居しても同じ治療を継続。初診からオンライン診療も可能。
※2026年11月2日時点の公式サイト表示。自由診療(保険適用外)。主な副作用:内服薬は性機能の低下・肝機能障害など、外用薬はかゆみ・かぶれなど。
マイクログラフト薄毛療法についてよくある質問
- マイクログラフトは植毛と同じですか?
-
別の治療です。自毛植毛術は後頭部の毛を毛包ごと薄毛の部分に移植する手術で、マイクログラフト薄毛療法は採取した皮膚組織を細かく砕いた注入液を頭皮に注射する治療です。
- 効果は証明されていますか?
-
日本皮膚科学会の診療ガイドライン(2017年版)にはこの治療の項目がなく、近い分類の「成長因子導入・細胞移植療法」は推奨度C2(行わないほうがよい)です。海外では効果を示す研究もありますが、規模の小さい研究が中心で、予備的な段階とされています。
- 自分の組織を使うなら、副作用の心配はないのですか?
-
採取部や注入部の腫れ・内出血のほか、皮膚の採取には麻酔と縫合が必要です。国内では、治療後に多発性の円形脱毛症が起きた例も報告されています。自分の組織を使う治療でも、リスクがないわけではありません。
- 保険は使えますか?
-
公的医療保険が使えない自由診療で、全額自己負担です。また、使用する機器が国内で未承認の場合(入手経路や国内で承認された同等品の有無、諸外国での承認状況は医療機関に確認を)、健康被害があっても医薬品副作用被害救済制度などの公的な救済制度の対象になりません。
まとめ:新しい治療は、根拠と承認の状況を確かめてから
マイクログラフト薄毛療法は、自分の組織を使う新しい治療ですが、ガイドラインでの位置づけはまだなく、研究も予備的な段階です。受けるかどうかは、推奨度の高い治療と比べたうえで、医師の説明を聞いて判断しましょう。
- 自分の皮膚組織を砕いて頭皮に注射する治療で、植毛手術とは異なる
- ガイドラインに項目はなく、近い分類の治療は推奨度C2
- 組織を砕く機器は国内未承認と案内されており(入手経路は国内代理店、国内で承認された同等品なし、諸外国ではCEマーク・FDA認可)、公的な救済制度の対象外
- まずはガイドラインで推奨度の高い治療と比べて、医師に相談する
出典
- 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」日皮会誌 127(13), 2763-2777, 2017 https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A 脱毛症」Q7(2026年10月19日閲覧) https://qa.dermatol.or.jp/qa11/q07.html
- 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」令和6年9月13日最終改正 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001304536.pdf
- Ellerby A, Knudsen R. Autologous Micrograft Technology (AMT) and Finasteride for the Management of Androgenic Alopecia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Dermatol Pract Concept. 2026;16(2):6211 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42190185/
- Almujaydil R, et al. Systematic review and meta-analysis of the use of micrografting technology in humans. J Int Med Res. 2025;53(5) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40411816/
- Toshima S, et al. Alopecia areata multiplex following autologous dermal micrograft injection for treatment of androgenetic alopecia. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019;33(11):e397-e399 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31120162/
- 青山エルクリニック「マイクログラフト薄毛療法(毛包皮膚組織移植法)」(2026年10月19日閲覧) https://www.aoyama-eluclinic.com/micrograft/
- 厚生労働省「美容医療に関する取扱いについて」令和7年8月15日 医政発0815第21号 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc9325
